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コラム
人はなぜ自分のことばかり話すのか?
2013年7月21日
人はなぜ自分のことばかり話すのか?
Scientific AmericanにThe Neuroscience of Everybody's Favorite Topic (人々の好きな話題に関する神経科学)と題する面白い記事があったので、紹介する。内容は要するに、人々は会話においてほとんどが自分のことばかり話すが、それはなぜかを科学的に解明したというものである。
人間はコミュニケーションする社会的生き物である。起きている大部分の時間は他者とのコミュニケーションに費やされている。計画を立て、冗談をいい、過去を思い出し、未来を夢見て、アイデアを交換し、情報を広める。このコミュニケーション能力が人間を繁栄させる原動力となったのである。
それではあなたの好きな話題は何だろうか。病気や飢えを解決する問題を議論する? あなたが普通の人なら、あなたが好む話題はあなたの考え、あなたの経験など、要するにあなた自身のことである。平均的に、人々が話すとき話題の60%はあなた自身のことである。ツイター、Facebookの場合はそれが80%にもなる。
ほかに話すことはいっぱいあるのに、なぜ人々は自分のことばかり言うのだろうか。最近の研究によれば、それは気持ちがよいからだという。
ハーバード大学の研究者はfMRIを用いて研究を行った。この装置で脳の活動度を観察すると、人間活動と脳の活動の関係が分かる。本研究では自分のことを話すと、動機付けと報酬に関する脳の部分の活動が活発化するかどうかを調べた。
実験では195人の被験者を対象に、自分のことを話す場合と、他人のことを話す場合を比較した。話をすると脳の三つの部分が活性化する。その一つは内側前頭前皮質(MPFC:Medial Prefrontal Cortex)である。この部分は意欲と関係している。このことは既に知られていた。残りの二つは予想されなかったものである。そのひとつは側坐核(そくざかく、英: Nucleus accumbens, NAcc)である。その部分は報酬、快感、嗜癖、恐怖と関連している。三つ目は腹側被蓋野(ふくそくひがいや、ventral tegmental area, ventral tegmentum、VTA)である。
これらの部分は報酬と関係しており、セックス、コカイン、おいしい食物などの刺激による快感、動機付けと関係している。ということは、自分のことを話すことは快感なのである。他人のことを話すより(それがどんなに興味深い話であれ、重要であれ)、自分のことを話したがるのである。
しかしここで問題がある。人々が自分のことを話す場合、誰かが聞いていることが必要かどうかだ。被験者はfMRIの中に入っているので、その人の話を誰かが聞いているかどうか分からないのだ。
そこで第二の実験が行われた。被験者は友人か親戚を連れてくるように言われる。そして被験者は自分自身についての話、他人に関する話をして、それが外にいる友人たちが聞いているか、いないかをあらかじめ知らされている。
この実験でも自分のことを話す方が、他人のことを話すより脳の活動は活発であった。そして話を聞いてもらっている方が、聞いてもらっていないより、活動度は高かった。これは加算的である。つまり自分のことを話し、かつ話を聞いてもらっているのが、最高に活動度が高いのである。しかし、たとえ話を聞かれていなくても、自分のことを話すと脳は活発化するのである。
自分のことを話すことはコミュニケーションとして悪いことではない。自分の経験を他人に開示することは、社会的な絆を強め、生存にも役立ち、主観的幸福感も高める。自分の考えを話すことは、他人からの反応を通じて個人の成長を促す。個人の経験を他人と共有することは、チームワークを強め、共有された記憶を作り出す。自分のことを話すことは、生存、個人の成長などを通して好ましい影響を生む。
人が自分のことを話すのは、脳の快感、動機付け、報酬領域を刺激し、楽しいからだ。しかし楽しいということは、その目的以上のものがある。社会に取っても、長期的な利益があるのだ。
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自分の場合
確かに自分のことを考えてみても、自分は会話で自分の意見とか経験ばかり話しているように思う。もっともそのことは、論文にあるようにプラスの側面ばかりではないように思う。というのは、話している方は幸福だが、聞いている方はつらいのである。人は自分のことをしゃべりたいのであって、他人の話など聞きたくないのだ。よく対話、ダイアローグということを言われるが、他人の対話を聞いていると、モノローグの応酬の場合が多い。人が話しているとき、なにかひとことを捕まえて「あっ、それは私の場合はね・・・」と話題を取る人がいる。私もこれを良くやり、いやがられていると思う。というのは、私が自分のこと、自分の意見を恍惚として話している時に、相手が私の話題を取って、自分の話を始めると、非常に不愉快になるのだ。あまりそういうことをしない人は、好感を持てるが、私の話題を奪う人には好感を持てない。
自分のことを話すと、たとえ人が聞いていなくても、幸福になるということも理解できる。たとえば話し相手のいない人が、犬や猫に語りかけている場合があるが、あれも楽しいのだろう。聞く相手が金魚なんかだと、反応が乏しいからダメかもしれない。犬と猫とでは、猫は自己中心的だから、あまり人の話を聞いてくれそうにない。犬の方が聞いてくれそうな気がする。
傾聴
先の話は話者が自分の話をすると幸福になるということの科学的証明であった。それを裏返すと、人の話を聞いてやる、とくに熱心に傾聴してやると、相手を幸福にすることができる。これを積極的に用いたものがActive Listeningという技術だ。分かっている人は、無意識にこの手を使っていた。昔の竹下首相の4語というのがある。「ほおっ」「なるほど」「なんと」「さすが」という相づちを打ちながら相手の話を傾聴する(ふりをすると)相手の好意を獲得できることを知っていた。
男を落とす「さしすせそ」という言葉がある。女性が落としたいと思う男性の話に対して「さすが」「知らなかったわ」「すごい」「先輩・先生」「そうなんですか」と、相手の目をじっと見て相づちを打つと、男はころっと落ちるという。男はプライドが服を着て歩いているようなものだから、そこを攻めるのである。この話はある女子学生に聞いたので、講義で話した。すると別の女子学生から「先生、これで恋人をゲットできました、ありがとうございました」というレポートをもらった。
松田 卓也
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