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コラム
ビッグ・ブラザーの世界にようこそ
2013年6月11日
ビック・ブラザーとはジョージ・ オーウェルの小説「 1984年」に登場する架空の支配者である。そこから転じて国や世界レベルの大規模な監視を行う人物、機関を指すようになった。そして今やアメリカにビッグ・ブラザーが誕生したのである。その機関とはNSA (National Security Agency:国家安全保障局)である。
スノードン氏の内部告発
スノードン(Edward Snowden, 29)というアメリカの元CIAに勤めていて、現在はNSAのハワイ支局で働いている若者が、最近、メディアにNSAの秘密活動を内部告発した。彼はNSAがアメリカ人の電話やメールをすべて盗聴していること、またそれがマイクロソフト、グーグル、アップル、アマゾン、Facebook、YouTubeといった、アメリカの代表的IT企業が協力していることを明らかにした。
彼は英国の新聞ガーディアン(The Guardian)のインタビューに、2013年6月10日に香港で応じて、その映像が公開された。それで大騒ぎになったのである。これほどの内部告発は、ウオーターゲート事件のエルスバーク、ウイキリークスのマニング以来である。彼は20万ドルのサラリーとハワイの快適な生活、ガールフレンドを捨ててまで、アメリカ政府が行っている国民に対するスパイ活動を暴露し、米国民のプライバシーと自由を守るために戦うのだという。彼の話の内容はここにまとめられている(Edward Snowden: the whisleblower behind the NSA surveillance revelatiobs)
全アメリカ国民をスパイするPRISM計画の全貌
その後、ワシントンポストがこの問題をさらに詳細に報道した。そこにはNSAのPRISM計画のパワーポイントファイルもあった。トップシークレットと打たれたスライドによると、マイクロソフト、グーグル、ヤフー、Facebook、PalTalk, YouTube, Skype, AOL, Appleが、電子メール、チャット、ビデオ、写真、貯蔵データ、VoIP,ファイル・トランスファー、ビデオ会議、login、SNAをNSAに提供しているという。興味あるのは各会社がPRISM計画に参加した年である。マイクロソフトが一番早く2007年、ヤフーが2008年、グーグルが2009年、最後はアップルで2012年10月である。つまりスティーブ・ジョブスが死んだ後である。ジョブスは政府の要請に抵抗したが、後の経営者は応じたのだろう。DropBoxももうすぐ参加とある。我々も安心してはおれない。我々のあらゆるインターネット関係の秘密はアメリカ政府に握られているのだ。
こんなものが出てはIT会社の信用に関わると、各社は否定に懸命だ。しかしその言葉を注意深く調べると「PRISMなんて言葉は聞いたことも無い。」それはそうかも知れない。NSAは単に名前を言ってないだけだろう。「我々は政府に裏口を用意していない。」多分、表口から入ったのだろう。「裁判所の命令に従って知らせている。」これは多分そうだろう。実はアメリカには、秘密裁判所があり、そこがNSAの要請を判断して、許可を耐えている。しかしデータによると、許可されなかったことはほとんどない。さらに電話会社のVerizonは裁判所の命令で、アメリカ国内および海外からのあらゆる電話に関するデータを提供していることが分かった。他の電話会社も同じだろう。
NSAとは
さてNSAとはいかなる組織か。CIAは人を使ったスパイ活動を行うがNSAは主として情報通信をスパイしている。本来、米国民をスパイするのは違法のはずだが、現在では合法的に行っているのである。司令官は中将だが、現在のアレグザンター将軍(Keith B. Alexander)はサイバー軍の司令官でもあり大将である。彼はアレキサンダー大王(Alexsander the Great)をもじって、Alexsander the Geekとあだ名されているという。Geekとはオタクといった意味だろう。本部はメリーランド州のフォート・ミードにあり、職員数は3万人と言われている。
NSAは現在、ユタ州に巨大なデータセンターを作っている。その貯蔵容量はゼタバイト(zettabytes)で数えられるという。メガバイト、ギガバイト、テラバイト、ペタバイト、エキサバイト、その上がゼタバイトである。
ジョージ・W・オバマとビッグ・ブラザー国家アメリカ
オバマ大統領は前任のブッシュ大統領よりはましな人物と思われていたのだが、全くそうでないことが分かって、アメリカではジョージ・W・ブッシュ大統領とかけて、ジョージ・W・オバマとからかわれている。オバマとブッシュを合成したこの写真はとても良く出来ていると思う。アメリカ人らしいユーモアだ。
これらのニュースが暴露されて、それ以降のアメリカのニュースをウオッチして、私が一番驚いたことは、議会のほとんどの議員がNSAの行為を容認し、スノードン氏を罰するべきだとしていることである。一部の議員だけが、これは独裁国家への道で許すべきでないとしている。また国民の世論も6割程度は仕方が無いと容認しているという。一部の活動家とメディアだけが、騒いでいるようなのだ。
アメリカの価値は何かと聞かれると、彼らはすぐに「自由、自由」という。ブッシュ大統領自身が9.11事件の後でのスピーチでアルカイダを非難し、彼らはアメリカ人の自由を憎んでいるのだと述べた。ところがそう言いながら、市民の自由を奪う警察国家を着々と作り上げてきたのだ。スノードン氏はオバマ大統領になれば、事態が改善すると期待していたのに、ますます悪化しているのを見て、内部告発したという。オバマ大統領はブッシュの4期目ではないかという冗談もある。オバマ大統領はテレビ出演して「だれもあなたの電話を聞いていないという」それはそうだろう。アメリカ全国民の膨大な電話を全部聞くなんてことは人間業では出来ない。人工知能が聞いているのである。これがNSAのあのゼタバイトのデータセンターが目指す道である。もっともスノードン氏によれば、その気になれば何だって出来る、大統領のメールだって読めると豪語していた。それも事実であろう。ちなみにオバマはテレビ出演で、いつもの流暢な彼とは違って口ごもった時がある。嘘をついているか、無理をして言っているのだろう。
私の意見としては、政府が全国民の通信を傍受するかどうかは、アメリカ人が決めれば良いことで、それをとやかく言う筋は無いと思う。ただ、自由、自由と言いながら、言うこととすることが異なるという、二重基準はなんとかしてほしい。アメリカは自由の国だと言う看板を外してからにしてほしい。
とはいえ、権力というものは、つねに二重基準で行われていることも確かだ。またアメリカ人の一部とメディアに、言葉通り自由を尊重する人々がいることも確かだ。このテレビ番組に出ている上院議員はオバマに怒っている。こういう人もいる。
エネミー・オブ・アメリカ
NSAを描いた映画はいろいろあるが、ウイル・スミスとジーン・ハックマン主演の「エネミー・オブ・アメリカ」はおもしろい。NSAの犯罪を描いた映画で、その要約はここを参照。この映画を見た当時は、NSAにこれほどの力があるとは思っていなかったが、それが現実的なものだと分かったのが、今回の事件である。
フェイスブックとマイクロソフトが米国政府に情報を漏らしていたことを発表
上記に関してはNPO法人あいんしゅたいんの私のブログ「マッドサイエンティストのつぶやき」の6月15日号を参照のこと。
松田卓也
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