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コラム
またまた永久機関・・・海水発電
2013年6月10日
「海をダムに見立てて海中で水力発電」神戸大院教授が構想発表、実現すれば原発1000機分の発電も可能」というニュースが2012年の2月に流れた。要点は次のようなものだ。
「海を巨大なダムに見立て、無尽蔵にある海水を利用して水力発電をしようというシステムを神戸大大学院海事科学研究科の西岡俊久教授(現名誉教授)が発案し、世界約130カ国に特許申請した。ローマ神話の海の神にちなみ「ネプチューン」と命名。西岡名誉教授は「莫大な電力をつくれる。二酸化炭素(CO2)も排出せず、究極のクリーンエネルギーだ」としている。
構想では、巨大な船から海底に向けて配管をのばし、海底などに発電機を設置。船で取り込んだ水は重力によって配管の中を落ち、その水流でタービンを回し発電する。
船にある海面の潮流の力を利用する発電機などでポンプを動かし、配管を落ちた水を放出する。」2012/06/02 16:43 【共同通信】
その図解などに関しては、次の記事を参照のこと。
この話がナンセンスであることは、物理をかじったことのあるものならすぐに分かるはずだ。これは第一種の永久機関、つまりエネルギー保存則を破る永久機関である。すなわち、この方法で発電された電力を使っても、せいぜい排水できるだけで、外にエネルギーは取り出せない。摩擦などのロスを考えると、エネルギーの収支はマイナスである。結局この装置は、最終的には水浸しになって終わりである。排水に潮流発電を利用するなら、それだけ使う方がましである。(ちなみに第二種の永久機関は熱力学第二法則を破るものである。)
このアイデアによれば、海水を筒で海底に落下させて発電するという。そこまでは良い。問題はその水をどう排水するかと言うことだ。海底は高圧になっているので、その圧力に抗して排水するには、ポンプを働かせねばならない。その電力をどうするかが問題だ。この先生は、海上に浮かべた船で発電をして、その電力を利用すると言うが、そんな電力はそのまま利用した方が良い。このシステムの効率が、(あり得ないのだが)仮に100%であるとしよう。そのときは、海底に設置した発電機で発電した全電力を利用して、ようやくきりきり排水できるのである。海中に排水しないで、ポンプで海上にくみ上げる場合も同じことだ。つまりこのシステムは効率が仮に100%として、エネルギー収支は0である。けっきょく得られる電力は潮流発電の分だけだ。
どんなシステムでも効率が100%ということはない。このアイデアの場合、水がパイプ中を落下するときに摩擦が働く。パイプ内の流れは、いわゆるポアズイワ流になる。だから流速は先生が期待するような、自由落下の速度にはならない。
流速はパイプの太さで決まる。もし十分に太い管の中を落下させたとすれば、水は飛沫になり、空気抵抗で落下速度はいわゆる終端速度になる。雨粒の速度である。これも自由落下の速度よりは小さい。結局、いずれにしても効率は100%にはならないのだ。
もっと効率的な方法がある。パイプの底に穴をあけて、海水の圧力と管内の空気圧の差を利用して、タービンをまわし発電するのだ。そうすれば、摩擦は少ないし空気抵抗はない。その場合は発電効率は、少しは高められる。それでもその電力で、水をきりきり排水できるのが関の山だ。右の穴から水を導入して発電し、その電力でモーターをまわして、左の穴から排水する。結局、水は右から左に移動しただけだ。
いずれにせよ、効率は100%ではないので、排水できない水がだんだんと穴に溜まり、最終的には装置は水没して終わる。
私はこの話を、新聞ではなく後に知ったのだが、色々調べてみると、つぎのような経緯のようだ。まずこの先生の話が大学のホームページにでた(それは後に削除されたようだが)。それを見た新聞記者が記事にした。ネットで話題になり、ナンセンスという意見と、すごい発明と言う意見が混じっていた。またしばらくして、別の新聞にでた。それは多分上記の共同通信の記事が元だろう。そこでまたネット界が盛り上がった。
このニュースの面白い点、あるいは嘆かわしい点は色々ある。
まず国立大学大学院の理系の教授、名誉教授たるものが、この程度のナンセンスなアイデアを信じている奇異さ。
それを新聞の科学記者が報道することの不可解さ、科学リテラシーのなさ。
それを即座にナンセンスとするものがいる一方で、すごいとか分からないとかいうもののいる科学リテラシーのなさ。
まず1に関して言えば、一つにはこの先生は海事学研究科所属で、それは旧神戸商船大学に属していて、大学の独立行政法人化のときに、神戸大学と神戸商船大学が合併したと言う経緯がある。したがって、この先生はプロバーな神戸大学教授ではなかった。しかしこの先生は、さまざまな賞を受賞しておられるようである。
(西岡俊久教授がルーマニアガラチ大学機械工学部よりNICOLAE BESCHIA賞を受賞しました. [2011.12.20])。
西岡俊久教授、藤本岳洋准教授、若林正彦講師が日本実験力学会技術賞を受賞しました。
だからこの先生が、よくある無能教授とは違う。だから謎なのである。
新聞の科学記事が全部正しいかと言うと、まったくそんなことはない。科学記者が文科系の出身であることもあるからだ。理科系出身だからといって安心できないのは、大学教授ですら安心できないのだから、当然のことだ。
ネット界の反応に関しては、ここを参照のこと。まともな反応であることが救いである。
実は大学教授が晩年になり、変な理論を唱えることはよくあることなのだ。さまざまな例がある。いずれ当会でも取り上げるつもりのEM菌などはその例だか。その他にも様々な例があり、それはそれで興味深い。実は私も神戸大学名誉教授で肩身が狭いのだ。
松田 卓也
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