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アメリカへの日本人留学生の減少

アメリカへの日本人留学生の減少

アメリカへの留学は若者の憧れの一つだった時代があった。
アメリカの中流家庭の車とテレビ、それに目もくらむようなプール付きの中庭でのパーティ。
そして緑豊かで国際色にあふれたキャンパス生活。
この憧れは2000年代の初期まで続いたが、最近になると様相は一変した。

かつてアメリカには47000人ほどの日本人留学生がいたが、最近になるとこれが25000人どまり。
アメリカ留学生の国別総数では第1位から現在第6位に激減した。
これを反映してアメリカ留学を支援(?)するというアメリカ教育研究所が主催する『留学フェア』に参加して自分の大学を紹介、勧誘するアメリカの大学数は激減した。
アメリカの関係する人々はこの現状を嘆いてくれる。
『アメリカ留学生は帰国後日本の主要な部署で活躍して指導的役割をはたしてきた。これが激減したのでは将来の日米関係にまで影響する』(読売新聞2011年1月、など)。
またわが国の政府関係者や『識者』も、『若者の内向き志向なのだろうか』と心配する。

はたしてアメリカ留学生の減少が国の将来を左右するほどの『由々しきこと』なのだろうか?
5万人にものぼるアメリカ留学生はどのような若者であったろうか。

筆者はアメリカシアトルに隣接するバンクーバーにおいて日本人留学生の様子をつぶさに見てきた。
もちろん冒頭で述べたアメリカ中流家庭への純粋な憧れがあるが、実態はいささかふに落ちないものであった。
何よりも目についたのは意図した日本の大学に進学できなかった若者が大変多いことだった。
あまり目立たない地方の私大に行くよりはアメリカ留学の方を選んでしまう。
さらに日本でどのようなレベルの大学にも進学できず長期の浪人生活を強いられるよりアメリカの大学を選ぶ。

次に目につくのは企業、政府関係機関からの派遣留学である。
これは主に大学院への留学であるが、企業、政府関係機関から選ばれて費用、給料丸抱えは当たり前、工系ならば留学先の研究室への手土産(研究費)までついている。
筆者の研究室出身で企業に就職したおよそ70名のうち、このような形の留学は大変多く、およそ26名にものぼった。

次は日本の大学院教育に幻滅して自分で学部終了後に入学資格をとって私費留学した人人。主に文系、それも経済、経営、英米文学などの分野の学生である。
さて今これらの留学生が激減したのだという。それは当然といえば当然ではないか。
今や少子化の影響で地方の私大など『全員入学』の時代となったのだ。
地方の旧国立大学などでも学部によっては全員入学に近いのだ。

この時代にアメリカに『逃げて行く』必要はなくなった。
それにアメリカ中流社会も崩壊寸前。憧れでアメリカにわたる動機のおおもとも無くなった。
考えてみれば日本の大学進学者の10%ものアメリカ留学生は異常であった。
アメリカ留学生の総数の第1位が日本である必要はないのだ。
これこそ異常であり、今、それがやっと正常に戻りつつあるのだ。

(本稿は物理科学雑誌『パリティ』(丸善)の、筆者によるエッセイを一部改編したものです)

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